■ 空を仰いで  VOL,4

「ローザ!!」
緑の髪をした、表情にまだ幼さが残る少女が振り向きざまに叫んだ。
ローザに駆け寄るが、その表情には再会を懐かしむような様子は無く、 ただこの数日に親友と呼べる関係の彼女の身に起こった出来事について、 なんとも複雑な表情をしていた。
「リディア、もしかして、セシルの件で来てくれたの?でもっ…どうして分かったの?」
先に口を開いたのはローザだった。 リディアはまだどうしていいのか分からない。 この出来事に彼女になんて声をかけたらいいのかわからないのだ。
すると、リディアの隣に居た金髪の、カインと呼ばれている青年が声をかけた。
「久しぶりだなローザ。俺は、リディアに今回のことを聞いたんだが、 これは…一体どういう事だ。何故…!」
「久しぶりねカイン。 落ち着いて、今回の事は、エッジのおかげで解決しそうなのよ。 それよりも、リディア…何故今回の事がわかったの?幻界には人間界の情報は入ってこないんじゃ…」
それに、今回の事をローザ達が知らせたのはまだエッジだけなのだ。 カインには所在地が判明次第知らせようとは思っていた。 セシルが居なくなり、国が騒ぎ始め、各地に噂としてこの事が広がれば、 いずれはリディアの幻界にも知られるとは思っていたが、 こんなに早くに駆けつけてくれるとは…まるで、セシルが居なくなるのを知っていたかのようだ。
「あたしが来たのは、声が………………」
すると、またもやエッジやローザの持つ武器が光りだした。 それだけではない。カインの持つ槍やリディアの持つ杖までも光りだした。 二人の持つ武器もあの時に月で手に入れた物だ。光はどんどん強くなっていく。 あまりの眩しさに目を開けてはいられない程になった時、4人は【声】を聞いた。
(……………………………………るか……………………)
すると、リディアが真っ先に反応した。
「この【声】だわ!あたしにセシルが失踪したのを教えてくれたのは!」
(その、声は召喚士だな…………竜騎士達も居るのか?)
エッジとローザはカインに注目した。何故この声の主はカインの事を知っているのか。
「………………誰だ」
すると、声の主はカインの声を聞いて安堵したかのようにため息をついた。

(………………………………私だ…………)
4人はこの【声】が誰のものか分かった。
あの時の戦いで、脳にやき付いてしまった人物のものだ。 あれを、忘れるにはまだ年月は経っていない。 あの時、最終決戦の場で別れ、二度と逢わない、会う事のできない人物だった。

「………………………………ゴルベーザ………………………」

驚きと混乱で声はかすれていた。
何故、今、彼の声が聞こえるのか。 それにどうしてこんな時に彼が交信して来るのだろう。 まるで、セシルの身に起こった事を知っているかのようだった。 しかし、彼には知る術が無いはずなのである。彼は、今、この星には居ない。

全てに決着がついた時、 この星に《帰る》と言った弟セシルに対して《残る》と言った兄ゴルベーザ。 この事の真実を知るものはあまりに少なかった。
彼も犠牲者であった事を。
早くに、暗黒の道から抜け出せた弟セシルと違い、 ゴルベーザは物心ついたときからずっと暗黒の道に染まっていたのだ。 そしてやっと、暗黒の道から抜け出せた時には、 彼のやっていた事はすでに取り返しのつかない事になっていた。 世界中に憎しみの種を生み、最強の軍事国家といわれたバロンをも操り、 世界を一触即発の状態にまで陥れたのだ。 彼がこの、蒼き星に戻っても、もはや居る場所は無いだろう。
それに、彼には罪滅ぼしの方法が思い浮かばなかった。 あそこまで世界を憎しみに染めたのだ。 それに、英雄となった彼等と一緒に戻って、 セシルと自分との関係が分かれば、セシルまでどんな目にあうか…! 考えた末、彼は月に残ると言った。
蒼き星を離れ、唯一の肉親とも離かれる事。それが、彼のできる最良の罪滅ぼしだったのである。
「ゴル…ベーザーさん…どうして貴方が今回の事を…それに、どうしてあたしに…」
「そうだ!何で俺のリディアに!」
リディアとカインはエッジの後頭部に突っ込みを入れた。 すると、ゴルベーザの笑い声が聞こえた。
(………元気そうだな。召喚士に声をかけたのは、 あの幻界と呼ばれる世界は地上よりも声が届きやすかったからなのだ。 今は月で精製された武器の力で4人に話しかけている。 だが、これもあまりもちそうに無い。用件だけ言う)
と、ゴルベーザが言うや否や急速に部屋を照らしていた光は弱まっていった。
「ゴ、ゴルベーザさん!貴方がどうしてセシルの事を…!」
だがゴルベーザはそれには答えない。 部屋を照らしていた光は急速に弱まっていき4人を照らすだけになっていた。 確かに、あまり時間が無さそうだ。
(セシルは少々傷を負っている。急いで迎えにいってくれないか。――――)
光は、既に各々の武器に宿るだけになっている。 ゴルベーザの声も途切れ、部屋には最初の明るさだけになった。
「おい!責任もって最後まで言え!セシルはどこなんだよ!」
「ゴルベーザさん!お願い!」
泣き崩れたローザの肩をリディアが支えた。 エッジもカインに押さえられている。 表情には出さないが、カインは武器を叩きつけたい思いだった。
全員に無力感が圧し掛かり、なす術が、残されていない事を分かりかけた時だった。
光は少し回復し、各々の武器にだけ宿っていた。

(………………………トロイア………………)

それだけが聞き取る事ができ、後には静寂だけが部屋を支配していた。

数時間後、バロンから飛行艇が緊急離陸された。 理由は言うまでもない。 場所は、バロンから遠く離れた、水と森、そして女官達が治める国トロイア。
トロイアはその領土の大半を森に覆われている。 何かを隠したりするにはもってこいだった。 だが、カイン達がここを捜索しなかったのは、 この森の中を捜索して自分達も消息不明になってしまう可能性があるからだ。 ここで余計な事に人と時間をさいている場合ではなかった。 しかし、あのゴルベーザがセシルの位置を必死でここだ、 と伝えてくれた事により、ローザ達の迷いは消えた。 だが、あまりにも森が広大すぎる。だがこれ以上人を捜索に狩り出すわけにもいかない。 そこで、カイン達が目星を付けたのが「磁力の洞窟」と言われる所だった。
ゴルベーザの話によるとセシルは傷を負っている。 あの、セシルに傷を負わせるとは並の人間には考えにくい。 そこで、この「磁力の洞窟」の特性を生かせばセシルに傷を負わせられるかもしれない。 カイン達の推理はこうだった。 この磁力の洞窟は、洞窟全体が強力な磁力でできていて、 鉄の鎧や盾、剣等を装備しているだけで強力な磁場によって 動けなくなると言う特性を持っているのだ。 そうでもしなければセシルに勝つ事などできはしない、と思われていたのだが、当てが外れた。
結局、トロイア国の人手を借りて片っ端から探すしかなかった。 だが、トロイアの人が、何日か前に北で狩猟をしている時に戦いのような音を聞いたらしいのだ。 それ以来北の方には近寄っていないので確認にも行けない。 変わりにその情報を聞いたローザ達が北の方に向かう事になった。 かすかな望みを抱いて。

そこは、まるで動物達の休息の場所に思えた。 森中の動物達が、そこに居るように思えた。 大きな動物はその周りにいて、小さな動物はその上にいた。 まるで、それを守るかのように。動物達の中心に、彼はいた。

「セシル………!」
動物達に守られて眠っているセシルの手には、 バロン城に厳重に保管されていた、聖剣ラグナロクがあった。
ローザ達の目の前に銀髪の髪を持つ、セシルが居た。 一ヶ月も行方不明だったわりに血色はいい。
だが、探していた者が見つかった。それで、充分だった。

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