■ 『空』  VOL,5

「いやあ、心配かけたね。ごめんね」
カイン達が部屋に飛び込んで目に入ったのは金髪の女性・ローザ に飲み物を渡されている体中包帯を巻いた銀髪の男性・セシルだった。
一日中こんこんと眠っていたわりにのほほんとした声で、しかも起き上がっての第一声だった。
謝ってはいるが事の重大性を分かっているのか、 カイン達の苦労を分かっているのかいないのか、笑顔ででは説得力はなかった。
なので男性2名の行動は無理なかった。
「御免ね、ぢゃあねぇんだよ。何がどうなのか、分かるように、きっちり説明しろ」
旗からみたら友人に心配された男性がその無事を祝っての行動に見えた。
が、よく見ると、セシルの顔に顔を近付けているカインの手には短刀が握られている。 しかもその切っ先はセシルの首にぴったりくっついていた。
さらによく見るとセシルの背後にはエッジ、らしき影のようなものがあった。 (さすが忍者)こちらからはセシルの体が邪魔になってよく見えていないが おそらく首の後ろ辺りにでも短刀が当てられているのだろう。
エッジは背後なので良く分からないがカインの目は真剣だった。 さすがにヤバイ。と思ったのかセシルはまず、赤い翼廃止の件で予想以上にもめた事を語りだした。

そしてその会議の終了後カーツから極秘、 と書かれた手紙をもらいその手紙の内容に従って一人で飛行艇の格納庫に行った、と告げた。
「………………………………………………………ぢゃあ、お前………… 自分から一人で敵の懐に入って行ったのか?!」
エッジが声を裏返すほど叫んだのは無理はなかった。 あの、この事件を解決にまで持ち込んだエッジでさえ、 あの毒舌と屁理屈だけなら誰にも負けない、 と言われているたかだか一介の貴族がどうやってセシルを 拉致するにいたったのか分からなかったのである。
それが……自分から……わざわざ…………………
セシルは表現しがたいような空気を払いのけるかのように、にこりと笑った。
「カーツが《赤い翼廃止》の件で僕を嫌っていたのは分かっていたよ。 彼、正直だからね。仲間も集めていたみたいだし。 でも、だからこそ話し合ったほうが良いと思ったんだ。 一応、何があっても回避できる自信はあったし」
瞬間、その部屋にいた全員が頷いた。皆、セシルの実力を知っていたからだ。 もし仮に、ここで『自信がない』とでも言おうものなら カイン、エッジ、シドは全力でセシルを袋叩きにしていただろう。 セシルもその辺は分かっていたようだ。
「でも待てよ。カーツの仲間はそこに行かなかったんじゃないか? セシルがいなくなって反セシル派とかいう奴は、カーツ以外全員バロンに居たんだぜ?」
確かに。もしカーツの仲間がそこに来ていてセシルを誘拐した後、 何食わぬ顔でバロンに戻り、何食わぬ顔で兵士に城に連行されるのは、 時間的とバロン城の警備体制から不可能だろう。
「じゃあ、相手はカーツ一人だったのか?!」
「じゃあどうして?どうしてカーツ一人に拉致されて、 こんなに傷だらけで一ヶ月も誘拐されていたの?」
ローザが泣きそうな顔をしてかすれた声でセシルの手を強く握り締めた。 ローザの表情を見ると、今にも泣きそうだった。
セシルは思い知った。自分が居ない間にこの優しい恋人にどれ程の心配をかけたか。
セシルもローザの手を強く握り返し、行方不明になっていた時の事を語りだした。
何故か、話すのを躊躇っていた素振りを見せた。

カーツにもらった手紙通り一人で格納庫に行った。 時間が夜だったので格納庫の中は闇が広がっていた。 辺りを見回し、カーツを探していると20人以上の黒いマントの集団に囲まれた。
(予想通りか)
セシルは黒マントに周りを囲まれながらも冷静にそう思った。 周りの黒マントは何も行動を起こさない。 ただ、セシルを逃がさないようにしているだけのようだ。
そんな状況がしばらく続き、そしてカーツが現れた。
カーツとセシルはしばらく睨み合い、しばらくしてカーツから語りだした。
カーツの語った内容はセシルの想像していなかった事だった。
カーツは赤い翼の重要性。 前バロン王への忠誠心(とみせかけた密かに王座への野望)。 『最強の軍事国家』の名を持つ事の偉大性。
そして、ひょっこり現れたセシルに、密かに狙っていた王座を奪われた憎しみ、 を延々と約2時間、その場で、語りだしたらしい。

「……………………………………………………………………………………………………」

思いもしなかった展開に、セシルはその場で頭が真っ白になったらしい。
エッジ達もそうだった。
「…………………………………あれは………… 入隊式に聞かされた隊長の演説より堪えたよ…………………………」
その時の状態を思い出したのかより一層顔を歪めるセシル。
「………………………………………………………… 予想以上に兵士に早く気付かれたんじゃなくて………… 予想以上に話が長くなったのか……………………………」
複雑な気持ちで納得をせざるを得なかったエッジ。
「そりゃ、逃げる暇も逃げる準備をする暇は無ないな……………………」
カインも納得せざるを得なかった。
部屋の中は異様な雰囲気に包まれ、セシルの話が一段落(?)し、話は急展開を見せる。
カーツの話がすみ、セシルが何とか言葉を発しようとした時、カーツの背後で影が動いた。
「話は終わった?じゃ、もう用はないね」
甲高い声だった。まるで、変声期前の男の子のような声だ。 それが人だと分かった瞬間、カーツの体がはじけ、セシルの目の前に赤い塊になってふってきた。
「カ、カーツ!!」
セシルが手を伸ばし、カーツだったものに手を触れる直前に、 セシルの周りを囲んでいた黒マントがセシルの手を遮った。 そしてカーツを片付けていく。黒マント達は大きな音をたててカーツを食していった。
あまりの残忍な後景にセシルが言葉を失っているとあの甲高い声の少年が拍手をし始めた。 「へえ、すごい。自分をはめようとした人間の事まで心配するんだ。 さすがだね。パラディン聖騎士セシル殿?」
ふと、気付いたように少年を見る。
何故、こんな少年が「パラディン聖騎士」の事を知っているのだろう。 セシルがパラディン聖騎士だ、というのはミシディアの民と、 あの戦いを一緒に戦った仲間達しか知らないはずなのだ。
それに、あの時の敵と…。
背筋に寒気を覚え、セシルがその少年に目を奪われていると、 黒マントのカーツの食事が終わった。 カーツが居たところには、どす黒い血しか残されていなかった。
あまりの出来事の展開の多さにセシルは何をしたらいいのか分からなかった。 その時に逃げていたら逃げれたかもしれないのに。
立ち竦む、といってよかったセシルにその少年はそのまま素直に飛行艇に乗るように告げた。 さもなくば城を吹き飛ばす、と。
「なっ……!」
ただの少年が、脅しや冗談で言えるような状況では無かった。 それにこの少年は、パラディン聖騎士の事も知っている。 あんな残虐な後景を見て顔色一つ変えない。 姿は子供のようでもそうではないだろう。 いずれにしてもこの少年の正体は分からない。 実力も、目的も分からない。 以上の状況から『城を吹き飛ばす』というのがあながち冗談に聞こえなかった。
「だから大人しく飛行艇に乗ったんだ。 僕達が城を出てから城を吹き飛ばす、とも考えられたけど、そうしなかった。 まさか一ヶ月も連れまわされるとは思わなかったけど…」
その一ヶ月の間、ちゃんと食事は出され、 部屋に監禁されていた事以外は何一つ不自由はしなかった。 もちろん、その間脱出方法や通信手段を考えもした。 しかしそこはいずこと分からない空の上。部屋にはベッドとトイレ。 持っているものといえば、聖剣ラグナロクのみ。 部屋からの出入りはできたものの、必ず誰かついていた。

「それで、そいつの目的は何だ?どうして、お前を連れまわしたりしたんだ?」
エッジの質問にセシルは数回瞬きをし、
「僕を連れ出したのはカーツだよ。そいつの目的は…聞く前に襲ってきたから分からない」
セシルは困ったような顔をして笑って答えた。本当に殺されそうだった実感はあるのか。

「…お前…最近剣の練習とかしていたのか?」
鋭く尋ねてきたのはカインだった。
あの時の戦いの時のセシルは、認めたくは無いが、無敵に近かった。 この星の、なかば半端平和ボケしている人間に、あのセシルをこんな状態にするとは、 実際目にするまで信じられ無かった。 カインの質問は真意をついていたが、セシルはきまりが悪そうに、
「…………実は……ここんとこ、国の事が忙しかったから………」
「ああ、赤い翼の廃止の件にエブラーナにまで協力を求めてきたもんな」
セシルの目は泳いでいたが、それに気付かないエッジが助け舟を出した。 セシルは安心した。これで乗り切れる、と思っていたが、カインの追及は止まらない。
「しかし、何があっても回避出来るほどの自信はあったんじゃないのか? って事は、お前この星の人間にはこれほどの事をされない自信があったんだろ? なのに、どうしてこんな状態にされたんだ?」
カインは「この星の人間」という言葉を何回も使ってきた。
うすうす気付いている。セシルが相手をしたのが誰なのか。
「いいじゃない、もう。相手は倒したんでしょ?だったらもう、気にする事無いじゃない」
セシルの沈黙を違う意味に受け取ったローザがカインの質疑をstopさせた。 変わりに、セシルが居なくなった時のバロンの状態を冗談をふまえてセシルに聞かせた。 そこにエッジも加わり、さすがのカインもこれ以上の追及を止めざるをえなかった。
その談笑の中、セシルは一度だけカインの方を向いた。 そのメッセージに答えるつもりでカインも一度だけ目を合わせ、 そして微笑んで見せ、目を逸らした。
すまない気持ちで一杯だった。セシルは、心の中で詫びた。カインと皆に。 その少年の正体をセシルは知っていたのだ。
その少年は言った。

自分は、セシル達に滅ぼされたゼムロスの残留思念の固まりだと。

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