■ 空を仰いで  VOL,2

「セシルが姿を消した」
シドがエッジの目を見て、確かな口調でそう言った。
エッジと大臣は沈黙し、言葉をなくした。 ローザは思い出すのも、聞くのも嫌といったふうに俯いてしまった。
「何者かにさらわれたのか、故意に姿を消したのか、しかし後者は絶対にありえん。 そんな男ではないからの」
「それはそれは…大変よいお人で…御立派です!」
エッジの隣で大臣が心から感心していた。うなだれるエッジ。
「…で、で?それは何時からだ?何時からいなくなった」
話を切り替えようとしたエッジの質問に二人は表情を濁した。

「一月前なの…………」

「なっ……!」
ガタッ!勢いを付けて立ち上がった所為でエッジの椅子は音を立ててこけてしまった。
「何でもっと早くに言いに来ねぇんだよ!一ヶ月って…!」
「すまぬ!こちらももっと早くに御主の所へ行きたかったのじゃ! しかし、セシルがいなくなった隙に飛行艇が盗まれ、残りのエンジンは破壊され、 修理に手間取ってしまったのじゃ!」
その言葉にエッジは愕然とした。

(計画ができすぎてる?もしや反乱?……いや、セシルに限ってまさか…!)
飛空挺がバロンの独占の製造船であり、最強の軍事国家の由縁を作ったのは、今や常識である。 ゆえに、1国家に所有権を独占されるのは過去の争いを繰り返すだけだと 今では移動船や運搬船に使われている。が、厳重な監視下の元にある。 それゆえに飛行船の運用は国王の許可、 ならびに総整備長であるシドの許可を得ないと使われない事になっている。 これは、先々月の国王会議で決まった事だった。
「それで、バロンでセシルを探したのだけれど見つからなくて、 飛行艇が奪われた事もあったから他の国に逃亡したのだと思って…」
ようやくローザが口を開いた、しかしその声は弱く、か細かった。
「…そうか………」
エッジには一つ聞きたい事があった。 しかしそれを聞くのは何故かためらわれたが、この際そんな事は言ってられない。
「なぁ、ローザ……シドさんよ………その……一応聞いとくが………その、 バロンにセシルを憎んでいる奴とかは………」
「山程いた」
エッジは完全に沈黙した。

前バロン王には王子はおろか、王妃はおらず、 正式な後継者は存在しなかったようなのである。 この動乱の以前から、 貴族達の中にはバロン王に恩を売っといて自分が王になる事を狙っていた者が多かったようなのである。 だが、そんな思惑を見事に潰したのは――
「…………セシルだった、というわけか…………」
(そりゃ腹も立つぜ)とエッジは心の中で呟いた。
「ええ、彼等はバロン王が亡くなったときいて我先にと、 自分こそが王に相応しい、とバロンの人達に言っていたようなの」
シドが握り拳を作っていたのをエッジは視界の片隅で捉えた。 この老人の気持ちも分かる。 あの、大きな戦いの中で、命をかけて (シドは実際一回死にかけたが)戦っていた時に何を自分勝手な……!
しかし、これはバロン国内の事情。 エブラーナ国王のエッジがいくら戦友の国であったことでも、 いや、戦友の国内の事情だからこそ、軽々しく口を出せるものではない。
それに、目の前の二人の方が悔しいに決まっている。

「でも」
ローザが顔を輝かせた。あの、結婚式の時に戻ったような表情だった。
「町の人も兵士も、誰も選ばなかったの。 彼等は陛下が亡くなられていた時点ですでに決めていたのよ。次の国王を誰にするかを」
それが、久しぶりのローザの笑顔だったのだろう。 彼女の表情を見てシドは一瞬ビックリし、そして同じように顔を綻ばせていく。
そんな二人を見て、改めて実感した。 あの、優しい青年のおかげでどれだけの人が救われたか。 きっと本人は気付かないだろう。いや、気付いても否定するに決まっている。
セシルがいた。その事だけでどれだけの人が救われただろう。
「しかし、即位式が終わっても一部の幹部は納得しなかったのじゃ。 『世界を救った事は認めるが、バロンの王になるのは認めん。 どこの生まれかも分からない者にこの国は渡さん』と、な」
セシルが姿を消したのはバロン国内会議で赤い翼を廃止する、と決定した後日。 その時に最後まできつく反対していた、カーツという男も姿を消している。 シドはカーツを至急指名手配した。懸賞金まで出した。 それでも、彼の足取りがつかめなかったので、カーツの仲間であったであろう幹部を 一人残らず連行し、尋問する事にした。 が、連行するのがただの旅人や平民なら簡単な理由を付けて連行することができる。 しかし今回はバロンでは少なからず権力を持っているものの連行なのだ。 これでは連行するにはそれなりに正当な理由がないと問題になってしまう。 この問題には頭を悩ませる…はずだったが、ある兵士の一言で問題は解決した。

「理由?そんなものセシルさんへの素行不良で充分です!」

「……………………」
エッジには二の句が告げなかった。何でも―――
セシルへの『態度』の素行不良ならまだしも 『顔』の素行不良で連行されたのもいるとかいないとか。
「…………………………………………………………………………………………………………」
これで問題にならないのだからバロンの『世界最強の軍事国家』が終わりを告げる日も、 そう遠くない気がしてきた。 だが、兵士達は恐れていたに違いない。 自分達の守護するべき人が、また、自分達の力不足で命を落としてしまう事を。

あの青年が、暗黒に身を染め、尊敬する人の命令だから、 と無理矢理納得しようとしていたが抑えきれない心のわだかまりに葛藤し、 悩み続けながらも何とか自分を維持していたあの青年が、 どれ程の人に慕われていたのか、どれだけの人の心を惹きつけているのかがわかる。 1年前の戦いで一緒にいた頃よりわかっていたがそれにしても嬉しくなってしまう。 あの、悲しい血の運命をあるいていた青年の存在がこれほど大きくなっているとは…

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