■ 『悠久の時代』  VOL,6

あの時の戦いで、人間の負の感情の塊だったゼムロス、という存在があの戦いの、 月と青き星を動乱に追い込んだ諸悪の根源だった。 セシル達が生まれる何年か前にゼムロスは月の民の長、 フースーヤによって月の地下深くに封じ込まれていた。
しかし、その思念は強い力を持ち、フースーヤの弟であり、 セシルの父でもあるクルーヤーを死に追い込み、もう一人の彼の息子、 ゴルベーザーを永きに渡り暗黒に染めたのだ。 その諸悪の根源にとどめを刺した時に、それは言った。

人に、悪しき心がある限り我は何回でも蘇る

と。それの言葉は強い恨みの精神を残した。
その精神を具現化してしまったのが、カーツだった。 よほどセシルを憎んでいたのだろう。 ゼムロスの残留思念を呼び寄せ、その精神を具現化させる程だった。
夜中に、それ、は現れた。 一瞬恐怖を感じ、逃げようとしたが、カーツが背を向けた瞬間 目の前に現れたそれは、カーツに言った。

《セシル=ハ―ヴィが憎くはないか…?》

生きている者が発するような声ではなかった。
いや、それは声なのか…?一瞬、戸惑いに似た恐怖が何なのか分からずにカーツはそれと結託した。
カーツの計画はこうだった。
まずセシルを拉致し、暗殺でもしよう、ともち掛けた。
しかしそれ、はその後にカーツを始末し、セシルの生存情報を餌に残りの4人をおびき出す気だった。 しかし、ゼムロスの予想外だったのはカーツが正直にセシルと敵対していた事と、 セシルの平和ボケしていると思われていた剣の腕が、あの頃とはあまり劣っていなかった事だった。 セシルはカーツの呼び出しを疑問に思い、 あの頃の月の民の最強精製武器・聖剣ラグナロクを持ち出していたのだ。
結果、ゼムロスとの一騎打ちにはセシルが何とか勝利できた。
ゼムロスが、人目から逃れた場所を選んでいたのが大きな勝因だった。 セシルはあの頃とあまり変わらない実力を存分に発揮する事ができたのだ。 だが、さすがのセシルも無傷というわけではなかった。相手はゼムロスの残留思念。 激しいダメージで木にもたれたまま動く事が出来ず、意識は薄れていった。

思い出されるのは今までのこと。
昔を思い出し、シドに謝った。
あの戦いの後国王になってしまったセシルを色々助けてくれた。 その前は息子のいない彼にとって、セシルを本当の息子のように対してくれた。 セシルもまた、父が居ないバロンでの父と言える存在だった。
続けて国の事で色々相談を持ちかけたエッジや一時は恨まれたリディアや親友のカインや、 今まで知り合えた人に謝った。
そして、最後に数え切れない感謝の気持ちを込めて、自分を受け入れてくれたローザに謝った。
これで最後だと思ったがふと頭をよぎったのは、一時は殺したいほど憎んだ、憎んでしまった、 兄ゴルベーザの事。兄弟として戦う力を与えてしまった、父クルーヤの事。
そして、これまで考えないようにしてきた、母の事。
言葉に表せないほどの感謝の意を込めてセシルは眼を閉じた。 暗闇の中で母が呼んでいる気がした。

「!」
誰かに呼ばれた気がしてゴルベーザはふりむいた。
今のは、遥か昔に聞いた母の声に似ていたような気がして、ふと、セシルの事が気になった。 そして、フースーヤにセシルの状況を調べてもらい、今回の事を知ったのだ。

今回の事はゴルベーザから聞いた、とリディアがセシルに言った。
もしかしたら、あの時自分を読んでいるかと思えた母が、 ゴルベーザに知らせてくれたのかもしれない。
セシルは毛布をつかんでいる手をかすかに震わせていた。 それを見たローザがリディアと共に部屋を出た。
エッジはカインが背を押した。カインもローザと同じものを見ていたのだ。
全員が部屋を出て行き、部屋にはベットしかなかった。 ベットの上には、兄と、父と、ずっと自分を見守ってくれていた、 であろう母に敬意をはらっているセシルだけが残された。
ふと顔を上げて今になって気付いた。部屋には誰もいない。
安心したかのようにため息をつき、逢う事のできない兄に、 きっと今も見守っているだろう父と母に挨拶するかのように窓から空を見上げた。
セシルの目には、雲一つ無い紺碧の空が広がっていた。 雲が一つも無いおかげでうっすらと月も見えた。
だが、自分は知っている。 かつてこの空には月が二つあった事を。 証拠は?と聞かれれば、迷わず言える。

自分がここに居る事が証拠だ、と。
この空は月が二つあったときも、一つになった今も変わらない色だった。 時代が流れても空の色は変わらない。ならば、かつて4人で見た時も紺碧の空だったに違いない。
今と変わらず。
言葉に表せない程の血の繋がりに感謝しながら。

かつて4人で見たように


END

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